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ナーシングセンター八幡健康エッセイ:第5回「夏の健康対策」

ナーシングセンター八幡 健康エッセイ:第5回「夏の健康対策」

ナーシングセンター八幡健康エッセイ:第5回
夏の健康対策:熱中症・冷房病・食中毒・コロナ
粟生(あおう)修司(ナーシングセンター八幡施設長、九州工業大学名誉教授)

気候変動(地球温暖化)で夏が早く始まり、猛暑日・熱帯夜が増え、秋の訪れが遅くなっています。おまけに今年は新型コロナウイルスが蔓延する夏でもあります。それらを乗り切るための夏の健康対策をまとめてみました。

1.熱中症
高温環境で以下の症状がでます。【軽症】気分が悪い、手足のしびれ、筋肉痛(→冷所で体を冷やす)【中等症】頭痛、吐き気、めまい、大量発汗、倦怠感(→病院で点滴)【重症】体温上昇、意識混濁、失神(→救急車を呼び病院で救命)。室内でも起きます。進行すると臓器の血流が低下し、多臓器不全を起こします。放置すると死に至る病気であり、迅速な対処が必要です。

その本態は脱水による体温上昇です。第一にやるべきことは体を冷やして体温を下げることです。そして、水分や塩分(電解質)を十分にとって体温調節機能を回復できれば深刻な状態を回避できます。

高齢になると体の水分が減り(体の水分:子供70%、大人60%、老人50%)、脱水を起こしやすくなります。暑さやのどの渇きも感じにくくなり、水分を十分に摂っていません。夜のおしっこをいやがって意図的に水を飲まない人もいます。そのため、高齢になると熱中症になりやすいのです。

しかも、高齢になると心臓や腎臓の機能が低下しやすく、熱中症が重症化します。若年世代の熱中症は8割が軽症です。65才以上では軽症は5割で、半数は中等症または重症なので要注意です。

対策
① 高齢者では室内で多く発生しています。部屋の温度が上がらないように(エアコン・扇風機・服装・風通し)、こまめに温度をチェックしましょう。ただし体に直接風が当たらないようにしましょう。
② 喉の渇きを感じにくいことを自覚し、意識的に十分水分を補給します。
③ 運動時は、塩分補給(梅干茶、昆布茶、スポーツ飲料、経口輸液など)も大切です。
④ 暑さに慣れ、汗をかくのに慣れると、汗の量も増え、体温調節機能も改善します。運動をして汗をかく習慣をつけましょう。シャワーや冷タオルの利用も有効です。

2.「冷房病」(「クーラー病」)
夏の暑さ対策(熱中症予防)にエアコンが活躍します。しかし、①エアコンで過度に体が冷え、さらに②室内と屋外の激しい温度差にもさらされると、自律神経の働きが乱れ、「冷房病」になってしまいます。

自律神経は、暑さや寒さに対応して体温を一定に保つ働きがありますが、5度以上の急激な温度差が頻繁に起こると、体に負担がかかりうまく調節できなくなり、ストレス状態になってしまいます。さらに、冷たい食物の摂り過ぎ、寝不足、不規則な生活が重なると、さらに体調不良(夏バテ)を起こしやすくなります。

自律神経はさまざまな内臓機能を調節しており、冷房病で自律神経の失調が起こると、さまざま体調不良(体の冷え、むくみ、こむら返り、だるさ、疲労感、イライラ、頭痛、肩こり、腰痛、のどの痛み、鼻炎、腹痛、便秘、下痢、食欲不振、肌荒れなど)が起こります。

エアコンを適切に使って、冷房病にならない工夫が大事です。

対策:冷房病は原因も対策もわかっているので、予防が可能です。まずは温度設定を26-28℃ぐらいに設定するのが無難です。

① 汗は拭く:暑い外から涼しい室内に戻ったら、汗を拭きましょう。汗に当たるエアコンの冷たい風は気持ちいいかもしれませんが、体から急に熱を奪われると自律神経に余分の負担がかかります。
② エアコンの風に直接当たらない:エアコンや扇風機の風に長時間当たると体が冷え、血流が悪化し、心臓に過剰な負荷がかかります。エアコンの温度や風向きを変えられない場合は上着やひざ掛け、腹巻などで調整し、「寒い」まま過ごすことは避けましょう。
③ 寝る時にはエアコンのタイマーを使う:一晩中エアコンをつけていると、冷房病だけでなく夏風邪をひく危険性も出てきます。2~3時間程度のタイマーを設定して寝るといいでしょう。自然の夜風をうまく利用することも一手です。緑の多い環境ではとくに有効です。
④ 運動をして血行を良くする:体の冷えすぎは血流の悪化を意味します。時折ストレッチをするなど体を動かして血行を促しましょう。夏場はついシャワーで済ませがちですが、ぬるめの湯船につかることで、冷えを解消することも冷房病対策になります。
⑤ 温かい食べ物をバランスよく食べる:涼しい室内では、暖かい飲み物もうまく使い、冷たいものばかり飲食するのは避けましょう。体を内側から冷やしすぎないことも大切です。

3.夏の食中毒
夏になり、気温と湿度が上がると細菌の繁殖が活発になり、食中毒を起こしやすくなります。通常は、食べ物に少々の食中毒菌がついていても、唾液や胃酸により殺菌され、食中毒は起きません。しかし、高温多湿で食品中の細菌が大量に繁殖した場合は、菌が腸まで達して食中毒を引き起こします。また、毒素を産生するタイプの細菌も(黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌)もいて、食品中で毒素が増加し、その毒素を摂取することで食中毒になることもあります。

夏に多い食中毒の原因となる主な細菌は以下の4つです。

1)O-157(腸管出血性大腸菌)
加熱が不十分な食材から感染し、少ない菌でも発症し、感染症や食中毒を起こす毒性の強い細菌です。
感染すると4~8日後に下痢や腹痛、発熱などの症状が現れます。ひどくなると尿毒症や意識障害を起こすこともあります。
家畜の大腸に生息しており、家畜の糞便から水や食べ物を介して人に感染し、人から人へと感染します。生レバーなどには特に注意が必要です。

【対策】加熱に弱い菌で、75℃以上に加熱することで予防できます。ただし、低温には強く冷蔵庫内でも生きているので要注意です。

2)カンピロバクター
汚染された水や食品、細菌を持っている動物との接触によって感染します。牛や豚、鶏などの家畜が細菌を持っていますが、犬や猫などのペットも持っていることがあります。

感染から発症まで2~7日ほど。まず、発熱、倦怠感、頭痛、めまい、筋肉痛などの症状が現れ、次に吐き気や腹痛におそわれます。その後、運動神経の炎症による四肢の運動麻痺(ギラン・バレー症候群といいます)を発症することもあります。

【対策】65℃で1分間加熱することで死滅します。人間への感染源としては鶏が最も重要で、鶏わさをはじめ、生の鶏肉を食べる際には注意しましょう。夏は食べないほうが無難です。

3)サルモネラ
サルモネラ菌は主にヒトや動物の消化管に生息しています。牛や豚、鶏などの家畜が細菌を持っていますが、犬や猫などのペットも持っていることがあります。
感染すると半日から2日で発症し、腹痛、嘔吐、下痢、発熱など風邪とよく似た症状があらわれます。

【対策】食肉や卵は十分に加熱し、ペットに触れた後にはよく手を洗うなどすることが有効です。

4)黄色ブドウ球菌
身近なところでよくみられる菌で、健康な人ののどや鼻の中、動物の皮膚や腸管、ホコリの中など、あらゆるところに存在しています。様々な食べ物の中で増殖し、エンテロトキシンという毒素によって吐き気・嘔吐・腹痛などの症状を引き起こします。感染すると、30分~6時間(平均3時間)で発症します。

【対策】エンテロトキシンは熱に強いため、加熱しても毒性がなくなりません。そのため、予防のためには食品内での菌の増殖を防ぐことが大切です。手や指に傷がある人は調理をしない、調理の前にはしっかりと手を洗うなどを心掛けてください。

予防対策:「付けない」「増やさない」「やっつける」

1)付けない:細菌を食品に付着させないことが大切です。
① こまめに手を洗う。
② 肉や魚を切るときは使用する毎に包丁やまな板を洗剤で洗う。
③ 肉や魚の汁が他の食品につかないように分けて保存する。

2)増やさない:10℃以下で増殖ペースが落ち-15℃以下で増殖停止
① 生鮮食品は速やかに冷蔵庫に入れて冷やす。
② 冷蔵庫内の温度上昇を避けるため、冷蔵庫のドアを開ける時間を短くし、冷蔵庫に食品を詰め込まない。

3)やっつける:ほとんどの細菌やウイルスは加熱によって死滅。
① 食品を加熱調理し、生食は控える。
② 肉や魚、卵を調理した調理器具に熱湯をかける。
③ 調理器具を台所用殺菌剤で殺菌する。

4.夏のコロナ対策
今年の夏は新型コロナウイルス対策をしながらの生活になります。マスクはコロナ対策には必要ですがが、熱中症は起こりやすくなるので上手に使う必要があります。

1)マスク
マスクは飛沫の拡散予防に有効ですが、着用していない場合と比べると心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇しやすく身体に負担がかかります。高温多湿環境でのマスク着用は熱中症リスクを高めます。屋外で人と十分な距離が確保できる場合はマスクをはずしてかまいません。木陰などの人が少ない場所でマスクを外して休むことも心がけましょう。汗で湿ると通気性が悪くなるので、マスクを適度に取り替えることも必要になるかもしれません。

マスク着用時は強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給を心がけます。周囲の人との距離を十分にとれる場所で、マスクを一時的にはずして休憩することも必要です。

2)エアコン
熱中症予防にはエアコン活用が有効です。ただし、一般的な家庭用エアコンは空気を循環させるだけで換気はしていません。冷房時でも窓を開けたり換気扇を使ったりして換気を行うことを勧めます。

少しでも体調に異変を感じたら速やかに涼しい場所に移動することです。人数制限等により屋内の店舗等に入ることができない場合は、屋外でも日陰や風通しのよい場所に移動しましょう。

3)体調チェック
毎朝の体温測定、健康チェックは熱中症予防にも有効です。日頃から自分の体調に注意し、健康管理を充実させ、体調が悪いと感じたら無理せず自宅で静養しましょう。

4)適度の運動
本格的な夏を迎える前から暑さに体を慣らすために、家の中で座ったまま過ごさず、足踏みや体操など軽い運動をしたり、人ごみを避けて散歩したりして、適度の運動を続けましょう。

今年の夏は、熱中症で発熱した患者と新型コロナウイルスの患者の区別に困難が生じて、搬送先がすぐに見つからず治療が遅れてしまう可能性が危惧されています。予防第一と考え、熱中症にもコロナ感染症にもならない生活を心がけましょう。

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